飛べないカラスたち




「レイ様…あたし、礼拝堂へ行きたい…」



「あ、はい……大主教様は、何をなさるんですか?治療なら、私も何かお手伝いを…」



「しなくていいのよ…もう、大丈夫なの」



礼拝堂へ付くと大主教がレイヴンの手から少女を引き取り、礼拝堂の中へと連れて行った。


全員が二手に分かれたのを確認すると、大主教は礼拝堂の扉を閉め、鍵をかけた。


残ったのは少女の血で法衣が真っ赤に染まったレイヴンと、沢山の血の足跡。


暫くは責任感だけで歩行を行なうことが出来ていたが、次の瞬間、恐怖が脊髄へと流れ込み、全ての神経の伝達信号を断ち切り、レイヴンはよろけるように礼拝堂の影へ座り込んだ。


大量の血液も、その匂いも、惨たらしい知人の怪我も、叫び声も、全てが身体にまとわり付いて、離れない。


寄宿舎では怪我人を救急車へと運んでいる人々の喧騒が聞こえたが、そちらを助けに行く力はもう残っていなかった。


礼拝堂と、木の陰に隠れて、レイヴンは暫く吐き気を抑えるために座り込んでいた。


遠くからは喧騒が聞こえていたが、どこか、テレビで流れている音を聞いているような現実のものとは感じれない錯覚に襲われた。


酷く眠い。


暫く俯いて座り込んでいると、睡魔が忍び寄ってきた。


時間にして、10分も経たないような僅かな睡眠。


その転寝を打ち消したのは、礼拝堂の木の扉が開き、軋む音。


目を覚ましたその、少し夢と現実が認識できてないあやふやな風景の中に、コマの付いた大きな箱がガラガラと音を立てて運び出される映像が脳に送られる。


その箱の中から、腕が、足先が、見えて、そして一筋の少し太い紐のようなものが、見えて、それが、先ほどまで見ていた、少女の、臍の緒、だと、気付いた。



「……え…」