飛べないカラスたち




「レイさんは、まだ未成年ですから新しい環境を提供することは出来ませんが…成人になるまで、ここで私たちのお手伝いをしてくださいね」



「はい、よろこんで」



大主教はとても嬉しそうに微笑み、それに釣られてレイヴンも微笑んだ。


それから、本当に嬉しそうに出て行く人、悲しそうに入ってくる人が入れ替わり立ち代りで教会を離れ、訪れて、レイヴンはもう人の名前を覚えることが困難になり始めた。


学校の校舎を隣接させたような広大な敷地には、それでなくとも礼拝者が後を立たないので、名前が覚えきれないのである。


レイヴンは教会の草花の管理を任され、せっせと枯れた葉を取り除いたり、雑草を抜いて水を撒く日々を過ごしていた。


たまに礼拝堂の中には入らずに、庭先で沈んでいる礼拝者がいれば、話しかけて、その心のモヤを解消することにも努めたのである。


根が真面目で優しい事もあり、レイヴンに話を聞いてもらいたくて訪れる礼拝者も徐々に増え、レイヴンはすぐに神官に近い神学徒となった。


人々が笑顔になるのを、純粋に喜んだレイヴンはいつしか自分が置いてきた義弟であるカインへの罪悪感も少しずつ薄らいでいったのだった。


だがしかし、勿論一日もカインを忘れたことはなく、何度か連絡しようと電話の前に立ったが、ボタンを押し切ることが出来ず、何度も受話器を置いた。


もしも、本妻である義母が出てきたら…。


レイヴンが電話を掛けることが出来なかった理由はそれだった。


義母の機嫌を損ねてしまえば、そのとばっちりは何の罪もないカインに向けられるのは火を見るより明らかである。


勇気が出ないのと、レイヴンを求めてやってくる礼拝者の多さと忙しさに、レイヴンは心に少し引っかかりを抱えながらも、その引っ掛かりと向き合うことはしないまま、現実へと没頭していった。





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