午後1時すぎ

玄関の鍵が、がちゃりと回転する音が聞こえた

テーブルに顔を伏せて、呆然とレースのカーテンを眺めていた私は、ぱっと身を起こす

ゆっくりと開いていくドア

私にはスローモーションのように感じた

黒い洒落た靴が私の目に入る

長くすらりとした足

黒いズボンに合わせて、ウエストがきゅっと締まって見える黒いジャケット

ジャケットの下には、オレンジのワイシャツを着ている

一番上と二番目のボタンを外して、色っぽい鎖骨が見えた

……紅夜さん……

私は座ったまま、動けずに部屋に入ってくる紅夜さんをじっと見つめる

紅夜さんは靴を脱ぐと、私を顔を見てにっこりと微笑みかけてくれた

優しい瞳が、私の緊張の糸をほぐしてくれる

邪な妄想が、色褪せた

「ただいま」

「お…おかえりなさい」

私は肩を小さくすると、俯いた

車の鍵と、家の鍵がついているキーケースを、テーブルに置くと紅夜さんが床に膝をついて、私の額にキスをしてくれる

「…あ…」

私は小さい声が漏れた