【天使の片翼】


女は、自分も注いだばかりのお茶を口へ運ぶと、一口飲んでから、息を吐いた。


「私にも、わからないのよ。

ただね、お父様が、あなたたちのためにならない事をしたりはなさらないと思うの。


だからきっと、ファラのためを思ってのことだと思うのよ?」


「お母様は、ご心配ではないのですか?

ホウト国は」


一瞬、しまったという顔をして、しかし、少女は続けた。

隠したところで、自分が知ったことはおそらく事実に違いないのだから。


「お母様の叔母上にあたる方の、出身国なのでしょう?

お母様を幽閉した叔父上様とともに、その国に亡命されたと聞いております」


「まぁ、誰から聞いたの?」


女は心の底から驚いて、お茶の入った器を危うく取り落としそうになった。


子供たちにその話をしたことは、一度もないのに。