【天使の片翼】


暑さのせいではない、冷たい嫌な汗が浮かんで、ソランの髪の毛を、額に貼り付ける。


その時。


少し離れたところから、場の緊張をほぐすような、穏やかな声が飛んできた。


「ソード様。

カナン国では、女性でも、やりたい事は率先してこなすそうです。


ファラ様は、乗馬と剣が、お好きと伺っております。

よければ、私が、お相手を務めましょう」


さきほどまで、ソードの剣の相手をしていた男が、いつの間にか、すぐ傍まで来ていた。



・・この気配。どこかで。



ソランが、顔をしかめると同時に、ファラが素っ頓狂な声を上げる。


「あ、あなたはっ!」


ファラの目の前にいる人物。

それは、間違いなく。


「なんだ、シド。お前ファラ王女と知り合いなのか?」


「まさか。

私がこのような高貴な姫君と、知り合いなわけがございません」


その男--シドは、ソードと全く同じように、完璧な笑みを浮かべて、ファラに尋ねた。


「さて、どうなさいますか?」