【天使の片翼】


侍女を連れてこないと、こういうときに不便だ。

失礼します、と心の中でつぶやいてから、ソランは、部屋の中へ忍び入った。


寝台に近づくと、小さな顔が、安らかな寝息を立てている。


ソランは、胸をなでおろした。

久々に、ファラをじっくりと眺めた気がする。



・・ファラ。



いけないと思いつつも、ソランは、ファラの銀の髪に指を入れ、そっと梳きやった。


ファラの輿入れの話を聞いて以来、正面から、まともに彼女を見ることができない。

こんな日が来る事を、ソランは、初めから知っていたような気もしていた。


王女と騎士の息子。


いくら仲が良くとも、しょせんは、支配する側と仕える側の人間だ。

もう昔には戻れない。


日が暮れるまで、森の中で野いちごを摘んだことや、

遊び疲れるまで、木登りをして笑ったことや、

真っ黒になるまで、川で泳いで魚を釣ったことや・・。


そんな無邪気な思い出を、すっかり過去のものとして、

誰にもわからないように、地下にでも埋めてしまわねばならない。