怪我のせいで、いったんは宿を逃げ出したのに、
おせっかいな姫君との、妙な出会いで、再び巡ってきた好機。
自分は、それをふいにした。
・・いや、そうではない。
男は、きっぱりと否定した。
自分の心に、言い聞かせるように。
そうしなくては、自分が生きてきた意味が、わからなくなる。
男は、これからの計画を、順序良く頭に描いた。
カナン国のカルレイン王といえば、もとは、疾風の黒鷲と恐れられた戦上手だ。
対外的には、恐れられる王も、娘の前ではただの親になりさがるものらしい。
・・殺すよりも、もっと効果的に、痛手を与えてやれる。
瞼の裏に、ファラの笑顔が映りこんだ気がしたが、男はそれに気づかぬふりをした。
男は、ゆるみかかった、自分の心に、もう一度厳重に封を施した。
二度と、開いてはならない。死の淵に落ちる、その瞬間まで。
はるかな高みから見下ろす月が、愚かな自分をあざ笑っているように見えた--。


