【天使の片翼】


男は、月を眺めた。

人の血を思い起こさせるような、赤い月。


ふと、ファラの胸から流れる赤を、想像した。


どうして自分は、ファラを殺さずに、部屋を出てきたのだろう。

そのために、彼女の泊まった宿に、わざわざもぐりこんだというのに。



・・ソラン、と呼ばれていたか。



男は、自分に怪我を負わせた、ファラの優秀な護衛の少年を思い出した。

まさか、自分より一回り以上も年下の子供に深手を負わされるとは、

思ってもみなかったことだ。


長旅で心身ともに疲れ果て、加えて宿に入ったことで、油断しきっているに違いない。

今夜が絶好の機会だとふんで、乗り込んでみれば、あっさりと返り討ちにあった。


男は、最初にファラの宿に忍び込んだときに、

すぐさま自分の気配に気づいたソランに、心の中で称賛を贈った。