【天使の片翼】


男は、冷たい空気を吸い込んで、肺を満たした。

昼間と違い、ひんやりとした空気が、心地よい。


さきほどまで、自分がいた、ファラの部屋を見上げると、

露台の先から、ちょこんと小さな影が顔を出した。


暗くて見えないが、多分、あの娘だろう。


こちらが見えているのかわからないが、男は、ファラに右手を上げて応えた。

とたんに、影が部屋の中に引っ込む。


今頃、部屋の中で、顔を真っ赤に染め上げているに違いない。

男は、ぷっと吹き出して、肩の痛みに顔を引きつらせた。



・・あの男の娘なのに、まるでその辺にいる街娘だな。

いや、街娘が、見知らぬ男を部屋に上げたりはしないか。



男は、肩にまかれた、淡い青色の布を、長い指で滑らせるように撫でた。


どこの誰ともわからぬ自分を、あっさりと部屋に招いた娘。

なんの躊躇もなく、自分の衣を引き裂いた娘。


父親と結婚したかったのだと、幸せそうに告白した娘・・・。