産まれてきて良かった。
君は、そう言うのだろうか。
この世に生を受け、わずか数年の命で散っていった君。
答えはいまだに出ないけれど。
男はたった今腰に結んだ、小さな布切れを眺めた。
波立つ心が、静まっていく。
男は穏やかな気持ちになって、空を眺めた。
自分が、再び愛を口にする日がくるのか。
それはわからない。
それでも二度と、心を閉ざすことはないだろう。
・・イリア。これで良かったんだよな。
足を動かしては、杖をつく。
杖に体重をかけては、足を前に移動する。
肩にかかる重さと自分の体重で、体が安定しない。
何度も何度も繰り返していくうちに、ようやく石と日干し煉瓦の家が男の目に入った。
男は、そっと瞳を閉じる。
いつか、ゆるやかに流れる時が、優しい人々の心の傷を癒すことを祈って--。