母の遺言どおりアリーの手紙を持参して、わけもわからずカナン国を訪れるよりも、
とりあえずホウトの城で下働きにつき、母の手紙と現状を記した自分の手紙を添えて送ってきた少女に、男は心を動かされた。
もしもそうでなければ、この手紙を読んだ瞬間に娘を追い出していたかもしれない。
愛する妻が盲目になった原因を作った侍女など、どうなったって知るものではないではないか。
男はゆらゆらと揺れる炎をじっと見つめて、息を吐いた。
宛先に名前を挙げられているリリティス本人は、この手紙の事を知らない。
レリーも中身までは知らなかったらしく、かたく口止めをしてある。
男は、静かに燃える炎の中に、初めて妻に会ったときの映像を映しだしていた。
『アリー』
彼女の澄んだ声が一番最初に呼んだのは、侍女のアリーの名前だった。
傍近くに仕え信頼していた者が、どれほど非道な事をしていたかなど、
わざわざ彼女に教える必要もないだろう。
・・あいつは、それでも許すというのだろうがな。


