【天使の片翼】


カナン国には緑が多い。

城の周囲や内側でさえ、いたるところに木々が生え、まるで森の中にいるように見える。


それが、初めてこの国にやってきたときにソードが覚えた感想だった。

どこにいても日陰が迫っているのに、なぜだか人々は温かみを持っている気がした。

それは、気候からくる風土のようなものかもしれない。


「僕の母が踊り子だったのは知っているだろう」


だしぬけに、後ろからソードの両腕が腹に回り、抱きすくめられる。

心臓が早鐘を鳴らし、レリーの頬に朱がさした。


「は、はい。マリウス様に見初められたのだと聴いております」


遊ばれたの間違いだろうと思ったが、ソードはそれには触れなかった。


「母の仕事はね、いつも夜だった。昼間は家で寝ていてね。

だから僕は、夜が大嫌いだった。母が活発に活動している夜がね」


「ソード様」


夜の闇が母を連れて行ってくれないかと、何度祈ったか知れない。

けれど、そうなれば自分も同じ闇に飲み込まれる気がして。


「レリー」