【天使の片翼】


ファラの言葉を信用したのか、それとも、反論するだけの元気もないのか。

男は、短く息継ぎをしながら、ファラの体に体重をかけた。


長身だが細身に見えたのに、筋肉があるせいだろうか。

想像よりも重い男の体に、ファラはよろめく体を支えて、必死で歯を食いしばった。


「どこへ、連れて行く気だ」


男の吐く息が、耳にかかって、ファラの胸が、どきんと脈打つ。


「私の泊まっている宿よ。心配しなくていいわ。

部屋は、私一人だし、朝までは、誰も入るなって言ってあるから」


「朝まで、ね」


男が意味深に薄く笑う。


「何?」


「いや、別に」



・・見ず知らずの男に襲われて、素性も聞かずに部屋に連れて行こうなどと。



「本当に、世間知らずのお嬢様だな」


つぶやいた男の言葉は、全身の力を総動員しているファラには、届かなかった。