男は、そんなファラの様子になど、構うこともなく、周囲の気配を窺っているようだ。
・・そ、そうだ。
悲鳴。悲鳴をあげなきゃ。
声さえ上げれば、誰かが気づくだろう。
さっきの連中だって、そう遠くへは行っていないはずだ。
男を助けようとしたことなど、すっかり忘れ、ファラは、大きく息を吸った。
とたんに、ファラの腕を握り締め、男が、彼女の耳元に重低音で囁いた。
「声を出すな。
騒げば、口付けだけじゃ、すまないぞ」
本気だ、とファラは思った。
すごむわけでも、怒鳴り散らすわけでもない。
感情の読めない、抑揚のない声。
恐ろしいほどに平坦な。
「あ、あんたなんか、怖くないんだから!
私の剣の腕は、たいしたもんだって、父様にだって褒められてるのよ!
し・・城の兵士たちにだって、負けないんだから!」
平静を装って叫んだつもりだ。
だが、思ったほど大きな声がでない。
震える体に、気づかれただろうか。


