【天使の片翼】


「つっ!何をする!」


頭を押さえたソードが勢いよくファラを睨みつけ、レリーはぽかんと口を開いた。


「あはは!いつものソードは、それくらい偉そうでなくっちゃね。

レリーもそう思うでしょ?」


ファラの心づかいが嬉しくて、レリーは涙目で同意した。


「はい!ソード様は、誰よりも自分勝手な方ですから!」


「なんだとぉ?」


まさかと思ったレリーの裏切りに、ソードは、かすれた声を向ける。


「ほら、そんな感じで、目つきが悪くないと!」


傍観者だったソランも口を挟む。


「確かに、いつものソード様ですね」


ソランが咳払いをして数拍の沈黙が流れた後、一斉に笑い声が起こった。


それを合図にしたかのように、馬車が流れるように動き始めた。


「ありがとう、みんな」


意識せず、ファラの口からこぼれた言葉。



・・シド。あなたの分まで、みんな頑張って生きていくよ。



遠ざかるホウトの城を眺めながら、ファラは、膝に置いた手を強く握り締めた。