【天使の片翼】


崖の上では、ソランが、次の矢を引き絞って自分を狙っている。

その隣にいるのは。


黒い衣装に身を包み、堂々と仁王立ちで立っているその人物。

自分が、何年もの間、夢に見続けてきたその男。


夢の中の男より、幾分年を取って見えるが、間違えるはずがない。

イリアを殺したあの男。


「カルレイン」


シドは、低くつぶやくと、恐ろしい眼光を放って、カルレインを見上げた。

獣が縄張りを荒らした敵を、目の前にしたときのように。


少しずつ強まった雨粒が、シドの全身をゆっくりと濡らしていく。

足先が、泥で埋まり始めた時、シドは優雅に歩き始めた。

ソランの弓など目に入っていないように、無言でゆっくりと崖を登り始める。


下からでは2人の姿しか見えないが、おそらく何人もの兵士たちが、

自分を殺そうと待ち構えているのだろう。

だが、そんなことはどうでもよかった。


たとえ自分の身が滅んでも、カルレインに一太刀浴びせずに、この場を去ることなどできようか。


冷たい雨も、熱くたぎった己の魂を沈めることなどできはしない。

シドは、ギラギラと輝く瞳とは逆に、嬉しそうに口元を緩めて、カルレインを見つめた。