【天使の片翼】


「なんだと?」


怪訝な顔で目を凝らすが、手を伸ばせば届く距離にあるファラの顔は、

その位置がやっとのことでつかめる程度だ。


「父様は、来ない」


ファラは、何かを決心したように揺るぎのない瞳で告げた。

それを口にすれば最後どうなるか、全て見通しているような深い哀しみの色。


「なぜそんな風に断言できる?

確かに普通なら、たかが娘一人を救いにくる愚かな王などいないだろうが、あの男は」


「違うから」


「は?」


「私、父様の本当の娘じゃないから」


一陣の風が吹き抜けて、二人の体に砂の毛布をかけていく。


凍りついたのは、ファラの心か、それともシドの表情か。


底知れぬ闇の中で、風になびく天幕の音だけが、二人の間を静かに縫っていった--。