【天使の片翼】


速度を上げる雲の一団が、おぼろげな月の明かりをさえぎると、

再び辺りは、一寸先も見えないほどの闇に支配される。


「はっ!ばかばかしくて、聞いてられな」


「ばかばかしくないよ」


間髪いれず、ファラは鋭い剣を振り下ろすように応じる。

これが、たった今まで泣いていた娘なのかと思うほどの、強い声で。

いや、泣いた後だからこその、決意を秘めた声音なのか。


「シド。

私を殺したら区切りをつけて、人生をやり直して。シドの新しい人生を」


「俺に、一からやり直せって?」


「一からじゃない。ゼロからだよ」


半ば呆れたように聞いていたシドは、真剣味を帯びたファラ口調に言葉を失った。

殺されることの、真の意味を、この能天気な娘はまるで理解してはいない。

どう考えても、そう結論付けるほかない。


だが、ファラは、シドのまったく想像していなかった方向へと話を導いた。


「この計画は、最初から失敗なんだよ」