【天使の片翼】


シドは、後悔しかけたが、話を途中でやめることはしなかった。


「俺たちは出会ってしまったんだ。お前の父親とな」


イリアの背を追って、砦の中を駆けたとき、突然男の背中が見えた。

黒い甲冑を身にまとった、おそろしい兵士。

あの時、あの男にさえ会わなければ、運命は別の方角へ転がっていたはずだ。


「イリアを庇おうと、俺はとっさに懐にしまってあった短剣を取り出した。

相手は一人で、しかも背を向けている。

何とかなると思ったんだ」


子供の浅知恵でな、とシドは卑屈な笑みを浮かべる。


「それで?」


「振り向きざま、そいつは長剣を振った。

剣は、赤黒い光を放っていて、おかしなことに、俺はそれが綺麗だって思った。

血のしたたる剣だってのに。


死を覚悟して目を瞑ったが、まるで痛みがやってこない。

変だと思って、うっすらと目を開けたら」


ファラは、ごくりとつばを飲んだ。

砂を飲み込んだように、喉がひりひりする。


ききたくない一言が、シドの口から湧き出た。


「イリアが斬られていた。俺を庇って」