【天使の片翼】




・・あいかわらず、かわいげのない男だ。



数年前、砂漠の民に襲われていた時、神のように突然現れて自分を救った男。

あまりに見事なその剣の腕に惚れ、使えるかもしれないと思って拾ったが、

男が何を考えているか、ルビドには今ひとつ把握し切れなかった。

しかし、唯一つ、カルレインを死ぬほど憎んでいることだけは確かだ。


この男なら、たとえカルレインに勝利しないまでも、

必ず自らの命をなげうって、互角の勝負に持ち込むに違いない。

そのために、わざわざソードの傍につけて好機を待っていたのだから。


ルビドは、すでにこの世に存在しない妹を思い出した。



・・あの時、カナン国を手にしていれば。



ルビドは、今更のように夢想する。



・・賢王としてたたえられていたのは、わしであったかもしれない。



彼女が、夫と子供を連れてカナンから逃げ帰ってきたときは、

自分も王位についたばかりで、ばたばたしていた。


足元を固めるのが先決で、カナンをめぐってノルバスに対抗する軍事力など、

とうてい持ち合わせているわけがない。


そうして、カナン国をこの手にできるせっかくの好機を、みすみす逃してしまった。

カナン国の王と王妃、それに跡継ぎの王子までもを手中に収めながら、

指をくわえて見ているしかなかった。