【天使の片翼】


「はあ~。生き返った~!!」


手の甲で、ぐいっと口元を拭う様は、とても王女とは思えない。


「信じられない女だな。

剣を持ちたがるし、その豪快な飲み方といい」


「男の子みたいだ、って言うんでしょ?」


子供のときから、毎回、挨拶のようにかわされた言葉だ。

胸に、刺さる台詞。


「別にいいんだけどね。私、本当は男の子に生まれたかったんだ」


ほんのわずか、ファラが目を伏せただけなのに、

ソードは、先ほどまで明るかった部屋が、急に暗く湿ったように感じた。


「剣が好きだからか?」


つい先刻まで、興味も持たなかったはずなのに、ソードは尋ねずにはいられなかった。

“どうして?”と。


それだけじゃないけどね、と言いながら、ファラは、寂しそうに笑う。


ソードはまたしても、どこかが、ずきんと痛むのを感じた。

何の痛みなのか、思い出せない。

果てしない記憶の底に、手がかりがありそうな気もするが、

それを探し出すには、決定的な何かが足りなそうだ。