【天使の片翼】


「あ、そうだったわね。怪我しないように、頑張ってね。応援してるから!」


ファラのとってつけたような応援に、ソランは、少しばかりむっとしたが、

頭を下げて、立ち去った。


カルレインが来なかった事が、相当こたえているのだろう。

しばらくは、しかたあるまい。


ソランは、選手の控え室に急いだ。

出番はまだ先だが、早めに精神統一して、万全の準備をしておきたい。


途中、自分の進行方向と反対側から、何人もの女性に群がられた男とすれ違った。


「これは、ソラン殿。

あなたが出場されるなんて、相手の兵が、哀れです」


すれ違いざま、というよりは、通り過ぎた後に、

男は、思い出したように、振り向いて声をかけた。


「いいえ。自分など、たいした腕ではありませんので。

ですが、カナンのために、恥をかかないよう、頑張るつもりです。


シド殿こそ、大勢の女性を引き連れて、余裕でいらっしゃいますね」


とても今から、剣の試合に出るとは思えない状況に、ソランは顔をしかめる。


どこかの妓楼(ぎろう)にでも、遊びに来ているようにしか見えない。

左手にさげた剣が、酒瓶に見えてきそうだ。