【天使の片翼】


女性が、しかもカナン国の王女が剣を振るうとあって、侍女ばかりでなく、

近くで練習をしていた兵士たちまでもが、遠まきに様子を窺っている。


「どこからでも、どうぞ」


ソードは、余裕の笑みで剣を構える。


「では、お言葉に甘えて!」


言うが早いか、ファラは、一瞬でソードとの距離を詰め、

右手に持った剣を、突き刺すように伸ばした。



・・早い!



ソードは、上半身を半分ひねり、背中越しにそれをかわすと、

そのままファラの剣に合わせて、上から叩くように、己の剣を思い切り振り下ろす。


ガキッという鋼の合わさる音に、周囲の見物人たちから、ほ~というため息にも似た声が上がった。



・・この女!



ファラのすばやさは、以前シドと手合わせしたのを見て知ってはいたが、

そばで見ているのと、体感するのでは、ずいぶん違う。


想像以上に、ファラの実力がありそうだと分かり、

ソードの瞳から、笑みが消えた。