脱兎の如く走り去って行った俊介はすぐに見えなくなる。

予想外の沈黙は、長谷部の「なんだよ、あれ…」という呟きで終わる。



わかった。私。

今気付くなんて、私、卑怯以外の何者でもない。


けど、それならみんなピッタリはまる。

私の中で。



「いっちゃん。
私ね、中学の頃いっちゃんの事好きだったんだ。
でも…付き合えない」



ごめんなさい。ありがとう。と頭を下げる。

彼女だと思ってた従姉妹の存在は、卑怯な私の言い訳だったに違いないから。
その時の私には踏み出す力も、認める勇気もなかった。


私は俊介に会ってから、好きな人に屈託なくむき身の自分で接していくってことを、きっとずっとあからさまにはわからなくてもずっと心で感じてきてたんだ。

好きだって気持ちが、恥ずかしいと思う事はあっても、それは決して後ろめたい気持ちじゃないって、俊介と一緒にいると素直に気付く事が出来る。


「いっちゃんがずっと私の事好きだって言ってくれて、ほんと、スッゴい嬉しかった。
あの時のドキドキした気持ちとか切なかった気持ちとか、そういうの、私の一方通行じゃなかったってわかったから……でも」


改めて真っ直ぐ彼を見る。
こんな風に胸張って向き合うのも、もしかして初めてかな。



「もう二度と俊介にあんなこと言わないで」



君は知らないでしょう?

騒がしくても迷惑でも、いつでも私を応援してくれたあの笑顔に声に、私がどれだけ踏み出す力をもらったのかなんて。





「先輩…変わりましたね」



裏庭を後にする私に、その場から動かずに言った長谷部の言葉に、不敵に笑って振り返る。


「私には最高の応援団長がついてるからね」