そこまでカオリが口にしたところで。 「おやおや、どこかで、目にしたことあるかと思っておりましたら、カオリ様でいらっしゃるではありませんか?」 その声は、突然耳に届いた。 ねっちょりした、耳につくような男の声。 顔を向けると、いかにも……といわんばかりの男が、両手をゴマすりながら私たちに近づいてくるのが見えた。 脂ぎった顔。薄くなった頭。そして、においそうな髭。 これでは、着られているスーツもかわいそうだ。