唇がそっと離れる。
まだ優斗は私の瞳を見つめ続けている。
「琴音、僕……」
優斗か真剣な表情で私に何か言おうとした瞬間。
『ザッ。』
地面を擦る靴の音が聞こえると、私達の側に拓哉がたっていた。
「おい、どういうことだよ白鳥。」
「……拓哉?」
怒りに満ちあふれた瞳。
ただ真っすぐに見据える優斗と拓哉との間に、私は立つことすら出来なかった。
それほどに冷たく燃えている瞳だった。
「てめぇは三角公園の山、オレはこの裏山で琴音を待つ。っていうルールじゃなかったのか?あ?」
じりじりと優斗に詰め寄る拓哉。
すぐにでも喧嘩になることは分かり切っていた。
でも私は足が竦んで止めることがかなわない。
「悪い拓哉。どうしても琴音に伝えなきゃいけないことがあったから。」
優斗もまた瞳をそらすことなどなかった。
「拓哉の気持ちも、琴音の気持ちもわかってた。すまない。」
頭を下げた優斗。
拓哉は襟を乱暴に掴むと、無理矢理に優斗の身体を起こす。
「ダメ……やめてよ、やめてってば……」
振り上げられた拓哉の拳。
「この、卑怯者。」
私の叫びも2人には届かない。
「拓哉ぁぁあ!!」
『ゴツッ。』