渡り廊下の真ん中まで来て拓哉は立ち止まった。
雨音だけがそこにある。
「で、どんな用かな鷲尾くん?」
優斗は拓哉の少し手前で立ち止まって、壁についた手摺りに寄りかかる。
「…………。」
ただ無言で優斗を睨み付けている拓哉。
優斗は小さくため息をして、困った様に言う。
「用がないのなら、もう良いかな?ボク琴音を待たせているからさ。」
踵(きびす)を返す優斗に拓哉が強い語調で言う。
「あいつにちょっかいだすの止めろよ。」
「……ちょっかい?」
振り返りもしない優斗の肩を思い切り掴み、拓哉は自分の方へと無理矢理に向き直らせた。
「お前、保健室であいつにキ……」
「キス?したよ。」
あっけらかんと言い放つ優斗に拓哉の怒りが爆発する。
思い切り振り上げた拳を頬目がけて振り下ろした。
「拓哉はさ――」
優斗の言葉に寸でで拳を引いた拓哉。
「どうして琴音に何も伝えないのかな?」
「はあ?何を伝えるんだよ?」
優斗は肩を掴んでいた手をそっと振り払う。
一瞬の沈黙に永遠に続くのではないかと思う様な雨音がザァーーーッと鳴り響く。
そして優斗がゆっくりと口を開くのだ。
「何をって……琴音に好きだって伝えるに決まってるだろ?」
栓をして無理矢理にせき止めていた感情をつかれて、拓哉がビクッと肩を揺らした。
「好きなんだろ?琴音のことが。」
「何言って……好きなわけねぇ、だろ……あんなヤツ。」
自分自身ですら煮え切らない言葉と思うほどに、歯切れの悪い返事をした拓哉。
「そう、なら安心した。僕は"今でも"ずっと琴音が好きだから、僕なりの方法で琴音に伝えるよ。じゃあね、鷲尾くん。」
優斗の言葉に僅かな違和感を感じていた拓哉。
頭で思うよりも先に言葉が出ていた。
「今でも……ってどういうことだよ?」
そして優斗が謎めいた笑みを浮かべるのだった。