「えっ、拓哉……なんで?」
私が驚いていると拓哉は歩きだした。
「ちょ、ちょっと。」
私も早歩きで歩きだし、拓哉に追い付く。
「なんで来たの……?」
「なんでって、今日は雨降って朝練もないから来ただけだよ。ほら、さっさと歩けよ。」
「――むっ。」
頭では少しカチンときて血がのぼってる感じがしたけど、お腹のあたりが温かくて、きっと私は安心していたんだと思う。
その安心感が私の口をゆるくして、私は言わなくていいことを口にしていた。
それも無意識に、だ。
「昨日ね……優斗にキスされた。」
拓哉が一瞬立ち止まる。
そして平静を装った無表情でぼそっと言った。
「……ふーん、そっか。」
そう呟いただけで拓哉はまた歩きだした。
心なしか歩調が早くなっていて、私はついていくのが精一杯だった。
それから私たちが学校につくまでの道程で会話をすることはなかった。
傘に弾ける雨音だけが頭の中で響いて、ガンガンとした。
さっきまで温かかったお腹のあたりも、それを口にしたとたんに感じなくなっていたんだ。



