「琴音、早く起きなさい。また拓哉くん来ちゃうわよ。」

「はーい。」

そんな風に返事をした私の頭の中では、拓哉は来ないと決め付けていた。

ピンポーン!!

「えっ――!?うそ、拓哉?」
私はビックリしながら支度を整えて玄関へと向かう。

ガチャ。開かれた扉の先にいたのは隣のおばちゃんだった。

「あら、お早う琴音ちゃん。」

「あ、佐々木のおばさん、お早うございます。」

拓哉じゃなくて残念だと思った私と、なんだか安心している私とが居て。

今日は少しおかしいみたいだ。

「はい、これ回覧板。お母さんに宜しく言っておいてね。」

安っぽいクリップ付のボードに無造作に挟まれた回覧板は少しだけ重かった。

するとお母さんがキッチンから少しだけ顔を覗かせた。

「誰だったの?新聞屋さん?」

「ううん。佐々木のおばさん。回覧板とお母さんに宜しくだって。」

私は、ほら。と言って持っていた回覧板を見せると、玄関の靴箱の上に置いた。

「もう時間ないんじゃない?トーストだけでも食べて行きなさい琴音。」

「お腹すいてないからいいよ。いってきまーす。」

何かを振り払う様にして玄関を飛び出す。

そして私のお気に入りの淡い空色の傘を広げる。




「……おせぇぞ。」

「えっ――?」