Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜


保健室に着いたら扉にメモが書かれていた。

『ただ今、用事で出ています。保健室の備品など勝手に触らないでください。』

優斗がしっかりとメモを読んでいたけど、私はズカズカと部屋に入っていった。

「そこ座って。」

私は小さい黒い椅子を指差すと、慣れた手つきで棚の中を探っていく。

白い棚の3番目の引き出しから湿布とガーゼを取り出す。

「良いのかい?こんな、勝手に。」

「大丈夫。私、保健の先生と仲良いから。」

「そういう問題?」

優斗のまっとうな言葉に2人でくすっと笑った。

沈みだした太陽が、拓哉に付けられたアザを温かに照らす。

私は湿布を優しく張り、適当な大きさに切ったガーゼをテープで貼った。

「僕のアザが心配?」

私の貼った湿布を撫でながら優斗がそう聞いてきた。

「心配に決まってるじゃない。それに……あんな。」

優斗は無言で立ち上がり、私の頭を撫でてくれた。

「やっぱり優しいね琴音は。流石は僕の"織姫"だ。」

「――えっ?」

織姫と言う言葉に驚いていると、いつの間にか優斗の顔が目の前まで近づいてきていた。

ほんの一瞬のことだったと思うけど、私は身体が石みたいに固くなってしまって。

優斗の近づいてくる優しい表情に見とれてしまったかのようで。

唇が重なってから離れるまで、初めてのキスの感覚を知ることもないほど頭が真っ白だった。