Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜


「あ、亜季だ。」

トラックを駆け抜けていく亜季。

「あいつは凄いぞ。今回の地区大会で自分が作った大会記録を大幅に更新して県大会行きを決めやがった。」

亜季頑張ってる。

去年のあの全国大会で予選落ちした後の泣き顔が思い出せなくなるくらい、たくましい顔をしている。

「女子バレー部は二度目の、卓球部は県大会常連だし、柔道部はキャプテンの浜野だけがなんとか県大会出場だ。」

野球部、サッカー部、男子バレー部、バドミントン部、吹奏楽部。

みんなの夏が知らない内に終わっていた。

「きっと皆。大人になったら、こんな暑い中必死こいて馬鹿だったな。なんてビール飲みながら言う様になるんだよ。」

カンペーは真面目な先生だったんだと最近になって知った。

「……そんで、いつか家庭が出来て子供ができるようになったら、そんなことすら思い出せなくなっちまう。」

いつもおちゃらけている先生が、私に真面目に語り掛ける。

「だから今を大切に。なんてありきたりな言葉を大人は言うんだがな。……なんか寂しいもんだよな。」

カンペーは立ち上がり、おしりについた埃を払う。

「さて、いくかマネージャー。」

「うん。」

パラソルはカンペーが持ってくれた。

大きな日陰がベンチにできた頃、だんだんと真っ白の雲が頭の上に集まってきていたのだった。