「ま、楽しくやってくれや。」
そう言って拓哉が笑う。
何故だろう、ほんの少しだけ胸がズキッと痛んだ。
「……ねぇ拓哉。」
「なんだよ?」
「私……優斗が何処か遠くへ行ってしまいそうで怖いの。」
私の台詞だけ聞いたら、付き合いはじめのカップルが、惚気てるだけに聞こえるかもしれない。
それは分かっていた。
「……心配ねぇよ。」
でも拓哉はちゃんと受け取ってくれた。
いや、もしかしたら拓哉も同じコトを思っていたのかもしれない。
「あいつにゃテニス部もあるし、お前もいる。ここを離れる理由なんかねぇだろ。」
「……拓哉。」
拓哉は青いベンチにバケツを置く。
ピチャ。っと跳ねた水が地面に染み込んで、あっという間に渇いていく。
「……それにもし、あいつがお前置いて何処かに行ったら、捜し出してオレがぶん殴ってやるさ。」
言い方は拓哉らしいけど、凄く優しい言葉。
「ありがとう、拓哉。」
「おう。」
2人で笑っていると、後ろから声がした。
「なーに2人とも仲良さそうにしちゃって。」
「白鳥。」
優斗がいつの間にかコートにいた。
なんだろう、ちょっとだけ顔色が良くないのかな?
凄く疲れてる様に見える。