Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜


それから家に着くまでは何も喋らなかった。

私はそれでも平気だったけど、拓哉はどうだったんだろう。

人に何かを伝えようとして、伝えられなかった時のあのモヤモヤとした気持ちの悪さ。

私にも分かるから。

「……そんじゃな。」

さっさと帰ろうとする拓哉。

まぁ、それ自体はいつも通りだったんだけど。

珍しく私がそれを止める。

「拓哉、ちょっと待って。」

「……なに?」

私は微笑んでみた。

いつもだったら「なに笑ってんだよ」とか「気持ち悪ぃ」とか言いそう。

でも、今はほんの少しだけだけど拓哉の表情が和らいだ様に見えた。

「こっち来て、目つぶってみて。」

「……はぁ?」

「良いから早く!!」

ふぅ。と鼻で息を吐いた拓哉が私の目の前で立ち止まり、目を瞑った。

私は右手に握り締めていたソレを拓哉の左手に付ける。


「はい、目開けて良いよ。」