それから家に着くまでは何も喋らなかった。
私はそれでも平気だったけど、拓哉はどうだったんだろう。
人に何かを伝えようとして、伝えられなかった時のあのモヤモヤとした気持ちの悪さ。
私にも分かるから。
「……そんじゃな。」
さっさと帰ろうとする拓哉。
まぁ、それ自体はいつも通りだったんだけど。
珍しく私がそれを止める。
「拓哉、ちょっと待って。」
「……なに?」
私は微笑んでみた。
いつもだったら「なに笑ってんだよ」とか「気持ち悪ぃ」とか言いそう。
でも、今はほんの少しだけだけど拓哉の表情が和らいだ様に見えた。
「こっち来て、目つぶってみて。」
「……はぁ?」
「良いから早く!!」
ふぅ。と鼻で息を吐いた拓哉が私の目の前で立ち止まり、目を瞑った。
私は右手に握り締めていたソレを拓哉の左手に付ける。
「はい、目開けて良いよ。」



