でも、仲地は、やはりそんなことには興味ないようで、ちょっと頼みがあるんだけど、
と言ってきた。
当然だろうな、と私は予想した答えに、安堵する。
慣れない人間だと、カルテを探すのは、まったく難しい作業だ。
なにしろ、一日に千人以上の外来患者が訪れるこの病院で、
2年分のカルテの量と言ったら、半端ではない。
カルテの並べ方も、何桁もの数字が色分けして羅列してあり、初めて見る人間には、
なんのことだか、さっぱりわからないだろう。
その中から、自分がほしいたった1冊のカルテを探すのは、
砂漠の中で、この砂を見つけて、と言っているのに近いものがある。
もっとも、砂と違って、カルテには、名前と番号が印字されているので、
その仕組みを理解すれば、きちんと特定できるわけだけど。
私は、仲地のもとへ急ぐと、まずお礼を言っておくことにした。
それから、カルテを探してあげればよい。
誰かに見つかったところで、先生に頼まれた、というのは、もっとも適切な言い訳になる。
さっきまで、地獄に落ちる境界線を歩いていた私は、
命綱が投げられたような気になって、慌ててそれを掴んでしまった。
その綱が、さらなる地獄へ繋がっているとも知らず。

