ふいに薄ら寒い、ぬめりとしたものが私の全身を支配した。
里佳子の母は、いつから私のことに気づいていたのだろう。
里佳子は、いつからそれを知っていたのだろう。
やっと長いトンネルを光に向かって歩き出したはずなのに、
急に土砂崩れが起きて道をふさがれた気分だ。
一筋の、光も見えない。
「どうして大橋看護師は、医師を呼ばなかったんだ」
黙り込んだ私の気持ちを代弁するように、亮雅が言葉をつむいだ。
「多分、遠慮したのだと思う。
その日の担当は、次に副院長になると噂されていた医師で、ひどく気まぐれな男だったんだよ。
私たちでも、その先生にお願いするのは気がひけるような横柄な態度を取る人だったから」
「ばかばかしい!!」
切って捨てるような亮雅の鋭い声が、アパートの薄い壁に当たって跳ね返る。
隣に人がいる気配はないが、もしもいたら、何事かと驚いたに違いない。
建てつけの悪い窓が、かたかたと音をたてて隙間風が忍び込んだ。

