医師不足が叫ばれて久しいけれど、いまだに改善の兆しは見えない。
慢性の睡眠不足に、肉体疲労。果ては患者さんからの突き上げや先輩医師のいじめ。
それらに耐え切れず、精神を病むか肉体を病むと、医師が減る。
医師が減れば、残った医師にますます負担が増える。
そうして続く悪循環。
「看護師から連絡を受けて病院に戻ったが、私の家は病院から1時間はかかる場所だ。
柿崎先生に連絡を取ってもらったが、彼は来なかった」
「なぜです?」
「彼もその日は3件の緊急手術をこなしていた。
それに私と同じで、勤務時間はすでに40時間を越えていた。
引継ぎはしてあるというのが、彼の主張だった」
「ひどい!それじゃあ、完全に手遅れじゃないですか。オンコールはどうなってたんです?」
私が声を上げると、柿崎はなぜか里佳子の方をちらりと見やった。
それにつられて私も里佳子に視線をやると、彼女の横顔が強張った。
「オンコールは、してなかったんだ」
オンコールというのは、看護師さんでいう当直のようなものだ。
入院している患者さんが急変したり、急患で運ばれた患者さんに何かあった場合に、
すぐに担当の医師が病院にかけつけて対処することになっている。
多分、柿崎が言う引継ぎとは、この医師に後を頼んだということなんだろう。
それなのに。
「母、ですね。オンコールをしなかったのは」

