逃げようとしても足が動かない、っていうか、逃げたところで仕方ないけど。
それにこの声が誰かわかったから、私は少し落ち着いた。
「永井君」
振り向いた私に、永井は驚いたように声をかけた。
「どうしたの?なんだか痩せたんじゃない?」
優しい永井の声に、私は胸に詰まったものが喉から出てきそうになるのを我慢した。
仕事の愚痴を言ったところで彼には迷惑にしかならない。
それなのに。
「良かったら、夕飯でもどう?今日はあがりなんだ。
あ、藤崎さんもう食べた?それとも彼氏に悪いかな?」
彼のにこにことした笑顔を見ると、やっぱり話を聞いてほしくなる。
「そんなことない。彼氏は・・・いないし」
「え?そうなの?じゃあさ、少し離れてるけど隠れた名店を知ってるんだ」
永井君はちょっと歩くけど、すごくいいところだから、と私と並んで歩き始めた。
いつもの彼にしてはちょっと強引だな、って思わないでもなかったけれど、
私にしても今までお世話になった永井に、お礼も言わずにやめてしまったことは心残りだ。
同期入社の人間として、きちんと挨拶くらいしようと思った。

