「ねぇ、夏夜?」


里佳子は椅子をがたがたといわせてベッドの横に並べると、そこにさっと腰掛けたらしい。

見えてはいないけど、音と気配でなんとなくわかる。


「なあに?」


「仲地先生と喧嘩でもした?」


一瞬、間が空いた。

多分今の沈黙で、聡い里佳子には全て伝わったろうけど。


「どうしてそう思うの?」


「うん、実はさっき病院の帰りに仲地先生に会ったのよ。

それで、仲地先生のマンションにお邪魔しますって断ったの。

そしたら」


里佳子にしては珍しく、言いよどむ。

次の言葉は、考えなくても簡単に想像がついた。


「もう別れたから、泊まっていくなりなんなり好きに使えって」


「そっか」


わかってはいても、第三者から“別れた”なんて台詞を聞くと、

胸の奥が傘でつかれたみたいにずきんと痛みを訴えた。