わずかに疑念が生まれたが、すぐに打ち消した。
里佳子の性格はよく知っている。
正義感が強く、曲がったことが嫌いな彼女がそんな事をするわけがない。
どうやって着替えたのか覚えていないが、私はいつもと同じように私服に着替え、裏口を出ていた。
横殴りの雨が、仕事帰りの大勢の人間に襲い掛かっている。
何人かの人が、傘をさそうとして断念し、悲鳴を上げながら走っていく。
警備員さんが折れた枝を片手に、巡回から戻ってきた。
他にも、空き缶やら折れた傘やらを手に持ち。
枝を見て、さっきの会議室の出来事を思い出していた。
梢が窓を叩く音が聞こえなくなったのは、枝が折れたせいだったんだろう。
『医者をたらしこんで同棲するなんて、おおやけにしないだけ感謝すべきだ』
傷の入ったCDのように、繰り返し繰り返し頭の中に再生される。
・・すごい台風だな。早く帰らなきゃ。
明日からどうすればいいのかとか、誰が亮雅とのことをばらしたのかとか
考えるべきことはたくさんあるはずだけど、疲れた頭が思考を拒否している。
ただひとつだけありがたいのは、今日が台風だったってことだ。
どんなに蒼い顔をしていても、顔がびしょぬれでも、
それがどうしてかなんて、誰も詮索したりはしないだろう。
屋根のある場所から立ち去る事を躊躇している人々を押しのけて、
私はゆっくりと一歩を踏み出した。

