それは救急外来の看護師さんである里佳子の母だった。
「どうしたの、こんな時間に。今日は当直じゃないでしょう?」
「あ、いえ。ちょっと忘れ物を取りに」
亮雅を探して、とは言えず、私はとっさにあまりうまくない言い訳をした。
それをごまかすために、大橋の方に話をふった。
彼女はずいぶん前に離婚して一人身のはずだ。
こんなところで人目を忍ぶ相手がいるなんて、里佳子は知っているのだろうか。
「大橋さんは、当直なんですね」
そう言って奥にいる人物に目をやる。暗闇に目が慣れてきた私は、その正体に息をのんだ。
「海東先生・・・」
とたんに、大橋が慌てて茂みからこちらに歩み寄ってきた。
「ちょっと、患者さんのことで相談があってね。私が帰り道に呼び止めたのよ。
それより、もう暗いから。忘れ物早く取って、気をつけて帰りなさいよ」
早く立ち去ってくれとばかりの大橋の態度に、ひっかかるものを感じる。
けれど、それが何かなど、考える余裕もなく私は別れを告げ病院に入った。

