家路に着いたのは、8時を回る頃だった。
精神的にぐったりと疲れた私は、なるべくなら亮雅と顔を合わせたくなかった。
亡くなった患者さんのことなんて、私の頭からすとんと抜け落ちてしまっていて。
人なんて、しょせんそんなものかもしれない。
他人の命よりも、自分の日々の生活の方が重要なのだ。
そしてやはり、ついてない日はどこまでもついてない。
私のほうが先に帰宅していれば、言い訳の必要もないのに。
玄関を開けると、部屋の明かりが見えて、私はため息をついた。
「どこ行ってたんだ」
ただいまよりも先に飛んだ、不機嫌な亮雅の声。
飲み会の時からおかしかったけど、それよりも迫力が増してる気がする。
「ちょっと買い物に。あ、ごめん。今すぐ夕飯」
作るからと言いかけて、ダイニングテーブルに並んだものに気づいた。
「亮雅。待っててくれたんだ」
手をつけずに並んだ二人分の食器。
けれど、台所の温度からして、たった今作り終えたばかりでないことがうかがい知れる。

