「両親は、刑事裁判にこだわりました。
でも、証拠不十分で、検察は立件を見送ったそうです。
仕方がないので、両親は民事で裁判を起こし、証拠保全は行いました。
けど・・・」
「カルテは見つからなかった?」
「いえ、あるにはありましたが・・・」
「改ざんされていた?」
「ページが抜かれていました。父が言うには、ですけど」
訴訟にはいくつかの種類がある。
刑事訴訟は、犯罪を犯したものに刑罰を科すかどうかの訴訟で、
民事訴訟とは、生活などの紛争を解決するためのものだ。
姉の場合は、医療行為上の過失はないと判断されたため、
両親は、民事訴訟を選択する以外に、姉の死の状況を知る手立てがなかった。
病院側の説明は、二転三転して、どうにも信用ができなかったからだ。
けれど、民事訴訟をおこした瞬間から、私たち家族は、世間というものがいかに恐ろしい物であるか、身をもって知ることになった。
そう。
この世ほど、地獄に近い場所はない。
私たちは、常に、地獄との境界線をよたよたと這いずリ回っているのだ。
そうと気づかぬままに。

