自分がどんな顔をしているのか、鏡がないからわからないけど。
「なんのことか、わかりません」
どうやら、とぼける以外に、道はなさそうだが、
仲地の口調からわかるのは、たんに興味本位で私を呼び出したらしいってこと。
私が、どこの誰であるかまでは、わかっていないんだろう。
まぁ、両親も離婚して、私は母方の姓を名乗っているし、
裁判は、10年も前に結審しているから、当然のことだろうけど。
私は、ほっと胸をなでおろした。
それなら、強気に出ても、問題ないはずだ。
好奇心が身を滅ぼすって事を、その年になってもまだ知らないと言うのか。
世間知らずの坊ちゃんにありがちな、傲慢さだ。
なんにしても、長居は無用。
私は、用がないなら、失礼します、と言って踵を返した。
その瞬間。
私の手首を、仲地の大きな掌が、まるで手錠のようにがっしりと掴んだ。
そのまま、ぐいっ、と腕をひかれ、私は180度反転する。
抵抗する間もなく、背中をドアに押さえつけられる。
心の準備もないまま、仲地の唇が、私のそれに貪るように押し付けられた。

