仮想恋愛

「脳は電気信号の塊だという事をご存知でしょうか」


「はい」


「彼の脳波とお客様の脳波をシミュレーターの中で同調させ、その結果を十年分の体験として、お客様の脳に記憶として残すという物です」


「えっ、体に危険はないんですか、頭がおかしくなってしまうとか」


 それを聞くと、小さな子供でもなだめるように女はわらった。


「大丈夫、テストを何十回も繰り返して、国の認可までとったんですよ」


 そう言って、指差す先には大事そうに額に入った認可証なるものがあった。


「これが国の認可ですか」


「ええ」


「そうですか」


 ただか……。


 今私は、言い寄ってきている男の事で悩みがあった。まあ悩んでいなかったらこんなお店には入らないのだろうけど。


 しかも三人、三人とも悪い男じゃないのだが、私は誰を選べばいいのかどうにも決め手がない。


 誰を選んでも良い様な気もするし、誰を選んでも駄目なような気もする。


「念を押すようですが、本当に無料なんですよね」


「勿論です」


 よし、やってみよう、店員は女だし、すぐ近くに交番もあって犯罪も無いような気もする。



「わかりました、やります」



「そうですか、それでは、ここに彼氏の名前と住所を書いてもらいますか」
「それだけでいいんですか」



 彼を連れてこなくても良いらしい。


「ええ、彼のデータとあなたの脳に残る記憶のデータから、コンピューターが彼の脳波を追跡し、衛星から得たそのデータを使用しますから心配しないでください」


「そうですか」


 なにやら難しいが大丈夫なようだ。


 私は、店員の言うとおりに腰まで覆いのあるリクライニングシートに身を横たえる。


「大丈夫、危険はないですからね」


 催眠術でも掛けるように小さな声で店員が告げると、すぐにいい気分になり私は目を閉じたのだった。