蝶々結び

しばらくすると携帯の着信音が鳴り出し、慌てて涙を拭った。


【優子】


辺りを見渡すと、すっかり陽が落ちている。


その光景を見て、もうすぐ夕食の時間だと言う事をやっと思い出した。


今電話に出たら、泣いてた事がバレちゃうよね……


優子に申し訳なさを感じながらも、携帯をポケットに押し込んでから深呼吸をした。


「ばいばい……」


小さく手を振ると、イルカはそれに応えるようにスイスイと泳いだ。


その愛らしい姿に落ち着かされて、小さな笑みを零す。


明日には、修学旅行が終わる。


また、いつかね……


心の中でそう呟いた後、階段に向かって歩き出した。


歩きながら、何度も振り返ろうかと思ったけど…


振り返ってしまうと寂しさに負けそうで、あたしはどうしてもそれが出来なかった。