蝶々結び

いつの間にか涙が止まっていた事に気付いて、ゆっくりと深呼吸をしてから口を開いたけど…


「先生……」


あたしの声は、どこかに消えてしまいそうなくらいに小さくて、すごく弱々しい物だった。


上杉先生の悲しそうな表情と沈黙が、あたしを不安にさせる。


告白の結果がどうとかじゃなくて、先生はきっと何かを言おうとしている。


確信は無かったけど、そんな気がしていた。


「……先生?」


今度はハッキリとした口調で言って、上杉先生をじっと見つめた。


この時、あたしの頭の中では先生と初めて出会った日の事が、まるで昨日の事のように鮮明に流れていた。


あの桜の木の下にいたあたしは、吸い込まれてしまいそうなくらいに綺麗な瞳をした上杉先生から、目が離せなかった。


きっとあの時から、あたしの恋は始まっていたんだ…。