「帰ろうか。俺達の家に」
「うん」
倒れた自転車をひょいっと起こす。
先生は自転車を押しながら、ゆっくりと歩く。
私は先生のTシャツの裾をつまんで、寄り添って歩いた。
「腹減っただろ。いっぱい歩いたから」
先生は、ポケットから小銭を出し、コロッケを買ってくれた。
びしょ濡れの2人を見て、コロッケ屋のおばさんが、傘を貸してくれた。
「これ、忘れ物の傘だから、使ってちょうだい」
さっきまで誰からも見えない存在だと思っていた私。
今は、違う。
先生と一緒にいるだけで、さっきとは全く色が違って見える商店街。
ビニール傘を差す。
先生が濡れないように、少し肘を伸ばして。
ずいぶん歩いたように感じていたけど、ぐるぐる回っていただけで、直線で結ぶとそんなには遠くないようだ。
10分も歩かずに家が見えた。