部活帰りの男子高校生が、楽しそうに歩いていた。



自動販売機の下にお金が落ちていないかなって一人の子が地面に寝転んだりして。




夕飯時の町は、いろんな匂いがする。


そのどれもが、懐かしくて、お母さんを思い出す匂いだった。



焼き魚、シチュー、焼肉、煮物……




鼻の奥がツンとして、私は空を見上げた。



今日の空は、もう暗いのに、表情がある。


白い雲がゆっくりと流れていくのがかすかに見えた。




5分ほど歩いた所で、私はここがどこだかわからないことに気付いた。



自分の家の近所はだいたい半径1キロくらいは何でも知っているんだけど、今の家はまだ住んで間もないので、ほとんど知らない。



適当に右に曲がってみる。


小さなカフェがあって、そこの前を通ると、急に涙がこみあげて来た。





コーヒーの匂い。

ちょっと苦いブラックコーヒーの匂い。




それは、先生を思い出すのに充分な匂いだった。