「せんせ……?どうかしたの?」



「いや。ムラムラしただけ。へへ……」




クーラーの風が私の前髪を揺らし出した頃には、先生は車を走らせ始めた。




私はドキドキがおさまらないまま、時々先生を横目で見た。




好きだな。

本当に。


全部が、好き。





突然あんなキスをする予測不能な先生も、愛してる。





「どこか行きたい場所ある?」




左手の手のひらで、先生は自分のあごのひげに触れた。


朝剃ったひげが夜には少し伸びる。




「先生が行きたい場所に行きたい」



「じゃ~、ラブホでも行く? あはは。嘘だよ」





嘘じゃないような気がして私はドキドキしちゃったんだけど、本当に冗談だったみたい。



先生は、海へと向かっていた。



あの思い出の海。




だからわかる。




きっと学校で何かがあったって。





わかるんだ。





何もなければ、あの海へは行かない気がした。