「そうだ!今日、一緒に帰らない?ちょうど部活がお休みだから。」
昼食と雑談を楽しんだ後、彼女から思いがけない誘いがあった。
断る理由もなく、約束を交わす友達もいない僕は笑顔で了承した。

全ての授業が終わり、待ち合わせ場所である裏門近くの噴水(ふんすい)に腰を下ろして彼女を待つ。
吹奏楽部の部長を務める彼女は楽譜を取りに行くと言って教室を出て行った。

あれから何時間経つだろう。
強かった日差しが穏やかになり、蜩(ひぐらし)の奏でる音に心を奪われた。
部活帰りの生徒の視線と笑い声が胸の鼓動を早くする。
それでも僕は帰ろうとは思わなかった。
約束を交わした事や先生以外の人と話せた事、昼休みに同じ時間を共有した事など、普段何気なくしている当たり前な事が僕にとって嬉しく思えたから。

沈んでいく夕陽がかなり印象的だった。
体温で温くなってしまったカフェオレが季節感を感じさせる。